『おみおくりの作法』
[asin:B00YDZ9LD0:image:large]
『おみおくりの作法』
監督はウベルト・パゾリーニ
ロンドンの民生係として働くジョン・メイ。
ひとりで亡くなった人の親族を探し、身寄りのない場合はその葬儀をするという仕事。
業務的に片づける事もできるそれを、ジョンは誠意をもって向き合う。
残された写真や遺品からその人となりと人生を紹介する言葉を書き、曲を選び、宗教にあわせて葬儀し、丁寧に埋葬する。
参列者はジョン・メイのみでも。
勤続22年。しかし、余りに丁寧にしすぎて効率が悪い為に解雇されてしまう。
最後の仕事は、くしくもアパートの真向かいに住んでいたビリーという男性だった。
ジョンは、彼の身寄りを探すため、参列者を集うため、イギリス中を駆け巡る。
まず、身寄りのない人の死が切ないのです。
自分で書いた愛猫からの手紙、室内に干してあるゴムの伸びたような下着、転がる酒ビン、残された遺品…
40日間も誰にも気づかれずに死んでいく…
これほど悲しいことはあるでしょうか。
そして、その死を丁寧に扱うジョン。
葬儀は故人のためのものではないという上司。
果たしてそうなのでしょうか。
人を弔うという事は、どういう意味があるのでしょうか。
だれにも感謝されない仕事を誠心誠意を持って続けてきたジョン。そこに、真の“仕事”というものを感じずにはいられません。
台詞も少なく静かな映画ですが、飽きさせないのはビリーがどういう人物なのかだんだんとわかっていくストーリーと、些細なちょっとクスっとしてしまうエピソードがふんだんにあるから。
それはだいたい食べ物絡みでツナ缶、魚、ジャガイモ、ココア、パイ、アイス、ウイスキーなどが出てくるんだけど、なんだかホッコリとするし、それによってジョンがどういう人物なのかわかってきます。
そして、エディ・マーサン演じるジョン・メイの表情が良いのです。
柔らかな光に満ちたような白っぽい映像の中、
憂いに満ちたり、心から寂しそうだったり、優しい微笑みと眼差しだったり… 言葉は多くありません。でも、その顔から何を思っているのかわかるのです。
何故彼がここまでビリーの事を追うのか。
それは、最後の仕事への熱量だけではないのだと思うのです。
ジョンもまた家族のいない身。
色のない白いそっけない部屋でひとりで暮らしています。
故人の写真を集めてアルバムをつくる姿は、ただの同情ではなく、誰からも忘れ去られた故人が、確かにそこに「存在した」という証しなのです。
そして、それを眺めるジョンは、彼らと自分を重ねているように感じます。
ビリーは、もうひとりのジョンなのかもしれません。
「死」と常に横にいるジョン。
ビリーの友人であった浮浪者が「欲しいのはただ黙って寄り添える相手だろ」みたいなセリフがありました。(ウイスキーの事なのだけれどw)
それはジョンの生きている糧でもあり、だからこそ生まれる真の優しさでもあり、かつ、寄り添える相手はジョンにとっては…死者にとっては…なのです。
「死」と向き合うことで「生」を見つめ直す。そんな映画でもあります。
そして、青が非常に印象的でした。
ドアはいくつもが青だし、犬シェルターの廊下も青、アルバム、セーター…
それが段々と色が淡くなっていきます。まるで晴れ渡る青空のように。ジョンの心のように。
そして、ラストへと続きます。
この衝撃的なラストについては何も言えません。
是非、見てもらいたい‼
面白いのっ‼
で、後半、様々な意味で号泣しっぱなしでした…
原題のstill life。静止画と言う意味です。
私はこれを故人の写真ととらえました。
前述したように、人の生きてきた証し。
人は死んだらただの個体になる。でも、それには静止画の理念と同じように、それぞれに意味があるのです。
そして、いまだに「生」は続くという意味ともとらえる事が出来ます。
死が題材だけれども、決して重くないし、号泣といってもただ悲しいお涙ちょうだいものとかそういうのではないし、淡々とした中で優しさと切なさを感じる作品です。
星4.6
あ、余談だけど、このジャケ、「6歳のボクがおとなになるまで」に似てる。
人が緑に横たわって青空を見上げる… 人それぞれ思う事がある。そして、空はいつでも私たちに黙って寄り添っている。