『ザ・ヴァンパイア ~残酷な牙を持つ少女』
『ザ・ヴァンパイア 残酷な牙を持つ少女』
原題『A Girl Walks Home Alone at Night』
監督はアナ・リリ・アミリプール
イラン系移民のアメリカ人の女性監督で、今作が初長編作品。
いつも全く予備知識を入れずに映画を観る私ですが、この映画は白黒&赤のアートーワークを目にして、それだけで観たいと思った作品♪
あと、イランのヴァンパイアってどんなんだろう‼って。
イランのある町“バッドシティー”。
娼婦・ポン引き・売人・ジャンキーたちがほそぼそと暮らす荒涼としたその町で、
ジャンキーの父親を抱えながら庭師として働くアラシュ。
何年も働いて買った車も父親のドラッグの借金のかたに取られ…
そんな時、彼はある謎に満ちた少女と出会う。
という、モノクロのヴァンパイア映画です。
とにかく、この少女(シェイラ・ヴァンド)に釘付けです。
少女と書いたけど、10代後半くらい。
ミディアムショートヘアーで、ボーダーのトップに細身のパンツ、黒いスニーカーというヌーベルヴァーグ映画を感じさせるようなルックスに羽織る足元まである黒いチャドル。
チャドルというのは、あの頭から羽織るイスラム教徒の女性が羽織るやつね。
そんな姿で、スケボーに乗って夜の町を駆け抜ける彼女♪
これだけでも絵になります。
彼女は無表情で台詞もほとんどない。
何を考えているのかわからない謎に満ちており、そのピュアな大きな瞳にみいってしまう。
本当に美しく、可愛らしい。
彼女の、謎の行動。
襲うのか襲わないのかわからない行動。
これにより、映画のドキドキ感が増長するのと共に、10代の若者のあやふやで気まぐれで罪的な不安定さを感じます。
若者特有の残酷性。
そして、ヌーベルヴァーグ的フェミニズム。
街の悪漢を襲って退治する闇のヒーロー性。
かっこいい‼
この少女に、強いたげられているイスラム教女性への監督の願望を感じました。
アラシュの、真面目でピュアな感じも良いのです♪
アミリプール監督は、DJなどもしており、その音楽がまず素晴らしい。
イランや欧米のロックやポップスを組み入れて10代の若者の感性を挟みつつも、何処か悲しげで虚無感と寂しさを含む選曲。
ほんとに素晴らしい。
そして、それにあわさる映像の美しさたるや‼
舞台はイランの架空の町、“バッドシティー”
イランでは撮影できなかったために、カリフォルニアの工場地帯で撮影したというのだけど、
このロケーションも最高に素晴らしい。
寂れた夜の街の美しさ。
工場の煙。それによる澱んだ太陽。
発電所の光。動き続ける採掘機。
悲しみと虚無感に溢れていながらも、その退廃的美しさに心を鷲掴みにされます。
音楽と映像の産み出す素晴らしきハーモニー。
これはモノクロであることもかなり効果的です。
淡々と流れるその映像と音楽にひきつけられるのです。
そして、ラブストーリーでもあります。
ボーイミーツガールな軸があり、それはわかりやすい簡単なラブストーリーではないのだけれど、
彼女の部屋(この部屋の個性的なセンスもかなり好み)で、アラシュと彼女が触れあうシーンに息をのみました。
彼女の流す曲。回るレコード。スローでゆっくりと近づく二人。微妙な距離。のびる首筋。ヴァンパイアで謎の彼女が噛むのかという恐怖。
このシーンはかなり名シーンだとおもいます。
胸が不安とときめきで仕方なかった。
この映画で、グロいシーンや怖いシーンはほとんどありません。
しかし、恐ろしさもあります。(これはホラーファンとしてでの意見ではない)。怖さの美学です。
後からみたところ、マカロニ・ウエスタンとデヴット・リンチを意識して作ったそうだけど、もちろんそれも感じるけれども、むしろジャームッシュの感じがする。そして、ホラーなカウリスマキ。
ジャームッシュの『オンリー・ラヴァーズ・レフト
・アライブ』や『ナイト・オン・ザ・プラネット』を感じつつも、
この独創性と雰囲気は独特のものであります。
間の使い方とかなんかも。
一見して本編とは関係ないと思われるシーンに、底辺の人に対する愛を感じたりもします。
女装家のダンスとか。
正直なところ、映画好きには楽しめる作品だとおもいます。
展開は遅いし、退屈かもだけど。
しかし、ラストにかなり良い余韻が残ります♪
新しい才能を感じました♪
猫ちゃんの才能も♪
スケボーに乗って夜の町を徘徊したくなった(笑)
もちろん、ボーダー着てね♪
星4.4